商売で成功するコツといったら、誰でも思いつくのが「良い商品を安く売る」ということではないでしょうか。私もそれに尽きるとちょっと前まで思い込んでいました。しかし、そのような常識が当てはまらない場合もあるのだということを、野村紘一さんに教えられました。野村紘一さんは不動産・建設業界の方で、そちらの世界ではかなり名を知られている方です。
1970年代半ばに、いきなり1億円もするマンションを販売し、またたく間に成功を収めて時の人になった方です。1970年代の普通のマンション価格は1500万円くらいだとされていますから、それの6〜7倍くらいのマンションを売り出したということに他なりません。今でいうと3〜4億円くらいのマンションを売り出したという感じでしょうか。今は高級マンションというのはけっこう売り出されていますから、高額なマンションを販売しても違和感はありませんが、当時はそんなマンションは存在していません。そこへ売り出すのだから大きな賭けであったことは間違いないです。
しかも、きっちり完売して成功を収めているところが最高にクールです。「良い商品を安く売る」ということばかりが商売上の真実ではないことが、この野村紘一さんの事例でもよく分かるのではないでしょうか。「良い商品を高く売る」ことでも成功はできるんです。でも、もう少しこのことをよく考えてみるに、野村さんが良い商品を高く売って成功できたのは、他に競合相手がいなかったからではないでしょうか。周りの建設業者は、野村さんの行動をある意味馬鹿にするような感じで眺めていたわけです。ですから、誰も競争相手がおらず、まさに独占状態というわけです。
野村紘一さんの成功を見た同業他社は、その後こぞって高級マンションの建設・販売に乗り出したそうですが、所詮は二番煎じ三番煎じでしかありません。良い商品を高く売るには、人々が何を求めているのかを敏感に察知する力も要求されるように思います。野村紘一さんはその能力も人一倍優れています。